カテゴリー「011将軍・家斉 」の記事

2006.05.01

高貴薬・瓊玉膏の下賜

火盗改メの任に足かけ8年近くも就いていた長谷川平蔵は、寛政7年(1795)4月に倒れた。

5月に入って病状がますます重くなっていることを聞いた将軍・家斉は6日、大陸渡来の高貴薬瓊玉膏(けいぎょくこう)を見舞いとして下賜することにした。

側衆の加納遠江守久周(ひさのり。伊勢・八田藩主。1万石)が長谷川邸へつかわされたように、これまで書いてきた。瀧川政次郎博士『長谷川平蔵 その生涯と人足寄場』(中公文庫)に「遠江守を平蔵の屋敷に遣わし…」とあったのが頭へこびりついていたためといってはいいわけじみる。

平蔵の息・辰蔵が幕府へ呈出した「先祖書」を読みなおしていたら、なんと、

「上意にて、お薬・瓊玉膏を頂戴するよう仰せつけられるむね遠江守のお宅で、ご同人からわたくしへお達しがあり、瓊玉膏を頂戴つかまつり候」

とあるではないか。
遠江守が長谷川家を訪ねてきて病床の平蔵を見舞ったのではなく、遠江守の屋敷へ辰蔵が呼びつけられたのだ。

よく考えると、なるほど、内閣官房長官代理がヒラ課長を病院へ見舞うわけがないのと同様、1万石の大名が400石の幕臣ごときの家を訪問するはずがない。

こちらが大の平蔵びいきなものだから、遠江守のような大身までが病床の平蔵をねぎらったように錯覚してしまっていたのだ。

辰蔵を呼びつけた遠江守が「老中格の本多弾正少弼(しょうひつ。奥州・泉藩主。1万5000石)どののほかご用取次のお2人のところへ礼に行くように…」と指図しているところがいかにも日本的なこころづかいだ。

手ぶらで行くのではあるまい。
このとき辰蔵は27歳、御目見(おめみえ)はすんでいたが出仕はまだしていなかった。

翌7日に、平蔵の同役の先手弓の頭で月番の彦坂九兵衛(42歳。3000石)に連れられてご老君(58歳の本弾? 家斉は23歳)へお礼に参上している。

その甲斐あってか、あるいは幕府上層部が実績の高い平蔵を冷たくあしらってきたことをうしろめたく感じたか、8日には辰蔵を書院番士に任命した。

家督していない者が番方(武官)に召し出されると家禄とはべつに廩米300俵をくだされるから、長谷川家としては家計が助かる。

もっとも平蔵はきょうかあすかの重体、辰蔵の家督相続はそれほど先のことではないから、幕府の腹はほとんど痛まない。

つぶやき:
多くの平蔵研究書が、加納遠江守が長谷川家を見舞ったように受けとってきたのは、幕臣の家譜を集めた『寛政重修(ちょうしゅう)諸家譜』の記述が、「平蔵病いにかかるのよしきこしめされ、ねんごろに御諚ありて、うちうちより瓊玉膏をたまい…」とあいまいなせい。この『寛政譜』は辰蔵が呈した「先祖書」を基にしているのだが。

| | コメント (0)

その他のカテゴリー

001長谷川平蔵 | 002長谷川平蔵の妻・久栄 | 003長谷川備中守宣雄 | 004長谷川平蔵の実母と義母 | 005長谷川宣雄の養女と園 | 006長谷川辰蔵 | 007長谷川正以 | 008長谷川宣尹 | 010長谷川家の祖 | 011将軍・家斉 | 012松平定信 | 013京極備前守高久 | 014本多家 | 016三奉行 | 017幕閣 | 018先手組頭 | 019水谷伊勢守勝久 | 020田沼意次 | 021佐嶋忠介 | 032火盗改メ | 041酒井祐助 | 042木村忠吾 | 043小柳安五郎 | 044沢田小平次 | 045竹内孫四郎 | 051佐々木新助 | 081岸井左馬之助 | 088井上立泉 | 090田中城主 | 091堀帯刀秀隆 | 092松平左金吾 | 093森山源五郎 | 094佐野豊前守政親 | 095田中城代 | 096一橋治済 | 098平蔵宣雄の同僚 | 099幕府組織の俗習 | 100盗賊一般 | 103宮城県 | 104秋田県 | 105山形県 | 106福島県 | 107茨城県 | 108栃木県 | 109群馬県 | 110埼玉県 | 111千葉県 | 112東京都 | 113神奈川県 | 114山梨県 | 115長野県 | 116新潟県 | 117冨山県 | 118石川県 | 119福井県 | 120岐阜県 | 121静岡県 | 122愛知県 | 123三重県 | 124滋賀県 | 125京都府 | 126大阪府 | 127兵庫県 | 128奈良県 | 129和歌山県 | 130鳥取県 | 131島根県 | 132岡山県 | 133広島県 | 136香川県 | 137愛媛県 | 139福岡県 | 140佐賀県 | 146不明 | 150盗賊通り名検索あ行 | 151盗賊通り名検索か行 | 152盗賊通り名検索さ行 | 153盗賊通り名索引た・な行 | 154盗賊通り名検索は・ま行 | 155盗賊通り名検索や・ら・わ行 | 160小説まわり・池波造語 | 161小説まわり・ロケーション | 162小説まわりの脇役 | 163『鬼平犯科帳』の名言 | 165『鬼平犯科帳』と池波さん | 169雪旦の江戸・広重の江戸 | 171文庫 第1巻 | 172文庫 第2巻 | 173文庫 第3巻 | 174文庫 第4巻 | 175文庫 第5巻 | 176文庫 第6巻 | 177文庫 第7巻 | 178文庫 第8巻 | 195映画『鬼平犯科帳』 | 200ちゅうすけのひとり言 | 201池波さんの味 | 205池波さんの文学修行 | 208池波さんの周辺の人びと | 209長谷川 伸 | 211御仕置例類集 | 212寛政重修諸家譜 | 213江戸時代制度の研究 | 214武家諸法度 | 215甲子夜話 | 216平賀源内 | 217石谷備後守清昌 | 219参考図書 | 220目の愉悦 | 221よしの冊子